【 ナイキスト の ディレンマ 】

 既述のにおいて、 撮影レンズの分解能より間隔の狭い画素配列では、それぞれの画素が実質的に意味のある画像を生成する 『 実効画素 』 とは成りえず、 結果的に画素として機能することはない、ということを説明しました。
 しかし、画素ピッチをレンズの分解能に合わせたとしても、最高解像力を発揮するには配置方法を考慮しなければならないことを、 ナイキスト周波数で知られるハリー・ナイキスト ( Harry Nyquist ) が指摘した測定原理 ( 注1参照 ) に則して解説したいと思います。

 下の図は、レンズによって露光面に結像する点像の強度分布を表したものです。

 縦軸が光の強度を、横軸が点像中心からの距離を表します。また、ρ で示されたディスク半径とは、回折の計算式で求められるエアリーディスクの半径です。
 左側の図はひとつの点像。右側の赤い点線は、近接した同一波長 ( 同一色 ) のふたつの点像が作り出す干渉強度を示しています。

 さて、右側の図におけるふたつの点像は、その距離が ρ になるまで次第に近づきつつあるものと仮定してみましょう。
 ふたつの点像の間に谷となって現われる光の強度は次第に強くなり、距離が ρ になった時点でふたつの点像を分離していたギャップが消滅することになります。 ( 注2参照 )
 これは 『 ふたつの点像を分離できる限界の距離 』 と定義される分解能が、なぜエアリーディスク半径に一致するかを説明するものともいえます。

 ところで、この図が、そのギャップが消滅する直前の状況を表すものとした場合、そのギャップの存在を検知するには、少なくとも図の底部に示したみっつのセンサーが必要になります。

 ここに、ナイキストの指摘が、大きなディレンマとして発生します。
    『 レンズの最高解像力を引き出すためには分解能の距離にみっつのセンサーが必要となる 』  ということが、
    『 センサーの間隔をレンズの分解能より狭くしてはならない 』  ということに矛盾しないのか、という問題です。

 結論を言ってしまうと、画素を正方規則配列とする現状の撮像素子ではこの問題への対処ができないため、たとえ、 画素ピッチをレンズの分解能に合わせたとしても、レンズ本来の最高解像力を発揮することはないのです。
 より具体的には、フィルムでは識別可能な解像力テスト・チャートの二本線の限界を、撮像素子では観察できないのです。

【注1】 ナイキストは、音波・電波・光波など、波動の周波数を測定する場合には、測定可能な最小限界値は測定器の測定精度の2分の1となることを提唱しました。 『 ナイキスト周波数 』 とは、その限界周波数を表す名称です。
 ナイキストの指摘に従えば、オンとオフが連続して変化するディジタル信号において、元に戻るまでの区間の最短距離を求めるには、 その2倍の精度(最短距離の半分の間隔)の検出装置が必要なことになります。

【注2】 ふたつの点像の波長が異なる場合、すなわちふたつの色が異なる点像の場合には、右の図に示すように、 その間隔が ρ となっても二点間のギャップが消失することはありません。これは波長が異なる光では相互干渉が起きないからです。
 しかし、この場合でも、点像間のギャップを検出するためには、その中間にセンサーが必要なことには変わりがありません。

【 画素配列 と 解像限界 】

 この、撮像素子が持つ問題の解決には、現在の正方規則配列に代わる新たな画素配列が必要になります。
 実現の可能性が最も高いと思われるもののひとつが、左に示す六角形を基にした画素配列です。 (図のクリックで他の画素配列を表示します)

 三ヶ所に示した三本の黒い太線は、撮影レンズが分離できる最小間隔を示したものですが、この画素配列によって、 時計に見立てて12時・2時・4時の三方向でレンズの最高解像力を引き出す撮像素子を実現することができます。 ( 注3参照 )

 なお、この六角形を基本とする画素配列は、右に示すように、 各画素に入射する光線をダイクロイック・ミラー ( 波長選択半透過型ミラー ) を利用して水平方向で三原色に分割する次世代の撮像素子において、 占有スペースが矩形となるRGBの3センサーを最も効率的に配置する方法でもあると考えられます。

【注3】 この画素配列でも 『 ふたつの点像 』 を分離することはできませんが、ここでは、 実際の解像力測定において実施される 『 二本の線 』 を対象としたチャート測定に沿っての説明とします。

 このようにディジタル・カメラを、1.解像力にもとづくレンズの性能評価、及び、2.測定精度にもとづく撮像素子の検知能力評価、とに分割して検討してみると、 現在の撮像素子は、画素数は限界値を超えてしまったものの、まだレンズの性能を充分に活かしきるまでには発展していないと言えます。

-- 2009 © Shigeru Kan : All Rights Reserved --

【著作権について】このサイトにおける情報を営利を目的として利用する場合には 書面による使用許諾が必要ですので Tenny@OSiv.com までご連絡ください。